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高橋 史朗

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感性・脳科学教育研究会会長
高橋史朗

第1回(全3回)
 筆者は研究者と授業実践者が連携した「感性・脳科学教育研究会」を平成十七年にスタートさせ、これまでに八冊の「公開セミナー報告書」を発刊してきた。
 文部科学省も平成十八年に「脳科学研究の推進に関する懇談会」を設置し、翌年に報告書「脳科学研究ルネッサンス|新たな発展に向けた推進戦略の提言|」を発表し、「発達障害を予防する方法を開発し、発達障害のある子供を大幅に減らす」と高らかに宣言した。
 大脳生理学の権威である時実利彦氏は、脳幹・脊髄系、大脳辺縁系、新皮質系の三つの統合神経系で人間を全体的、総合的に理解する必要があると指摘しているが、この点を踏まえて、以下の三つに関する脳科学の知見を教育に活かす必要がある。
 第一に、脳幹を育て、生活リズムを整えること。第二に、大脳辺縁系(扁桃体・海馬等)を鍛え育てること。第三に、新皮質、特に前頭連合野を育てること。
 脳幹は呼吸、睡眠、心臓活動、血液調節等を司る生命の中枢部分で、脳幹を育て、生体リズムを整えるためには、早寝・早起き・朝ごはん、テレビ・ゲームは時間を決める、外遊びの奨励等の実践が必要である。
 大脳辺縁系は「たくましく生きる」ための中枢部分で、扁桃体は好き嫌いの判断、情動に関わり、海馬は記憶に関わる部分で、運動するとセロトニンが出て扁桃体に抑制がかかり、過剰反応をしなくなる。脳がスッキリして効果が上がる。また、運動すると運動連合野が働き、隣の前頭連合野が刺激されて学習効果、記憶力が上がる。
 大脳辺縁系を鍛え、育てるためには、
1.喜怒哀楽の感情が育つ 多様な体験をさせる
2.是は是、非は非の指導 により、悪い回路の軌 道修正をする
3.ほめて育てる(良い回 路を伸ばす)。「もう 一度やろう」とする意 欲付けをする
4.寒暖、風雨に身をさら す
5.遊びと勉強のケジメ、 メリハリを持たせる
必要がある。
 前頭連合野は判断力向上、情動抑制、創造性、理性等「人間らしさ」の中枢部分であり、これを育てるためには、
1.夢や希望を持つ
2.多様な人間関係
3.直接体験、本物体験
4.自分が選んだ体験
5.音読、全校読書
6.漢字ドリル、計算ドリルの繰り返し
7.野外活動
8.下級生の世話
等が有効である。

第2回
文部科学省は平成15年7月の「脳科学と教育」の検討成果を踏まえ、平成17年10月に、「情動の科学的解明と教育等への応用に関する検討委員会」報告書を発表し、次のように提言した。
? 子供の対人関係能力や社会的適応能力の育成のためには、適切な『愛着』形成が重要である。
1. 子供のこころの成長のためには、基本的生活リズムの獲得や食育が重要である。
2. 子供が安定した自己を形成するには、他者の存在が重要であり、そのためには特に保護者の役割が重要である。
3. 情動は、生まれてから5歳くらいまでにその原型が形成されると考えられるため、子供の情動の育成のためには乳幼児教育が重要である。
4. 成人能にも高い可能性を示す領域があり、この点を意識した生涯学習が重要である。
5. 前頭連合野や大脳辺縁系が子供達の健やかな発達に重要な役割を果たしている。前頭連合野の感受性期(臨界期)は、脳科学の知見から推論すると8歳くらいがピークで20歳くらいまで続くと思われ、その時期に、社会関係をきちんと教育・学習することが大切である。
さらに、発達障害について「言葉の表現力が乏しい、対人情報がうまく使えず人間関係が上手く構築できない、衝動性を抑えることが苦手」などの点を早期に発見し、早期に対応できれば「社会的不適応や反社会的行動等をある程度減少させることができる」として、「発達障害及び児童虐待の視点から見た教育現場における対応の仕方を脳科学の成果を踏まえて科学的に検討することも、教育現場における子供達のこころの問題への対応を考える上で必要なことと思われる。また、これらについては、親自身が同様の問題を持つ場合が少なくないので、子供のみならず、親子への対応の体制作りが有効である」と同報告書は指摘している。
 浜松医科大学の杉山登志郎教授によれば、発達障害は10%、境界上にある子は14%、合わせると約四分の一の子供が、発達障害または発達障害と似た症状を示している。埼玉県では平成23年から「子どもの発達支援プロジェクト」を立ち上げ、予防、早期発見、早期対応、教育支援の4段階に分けて、年間2億円の予算で3年間取り組んだ結果、発達障害児の「行動に変化があった」が68%、「保護者が変化した」が85%という画期的な調査結果を得たが、この一貫した支援体制を全国で構築する必要がある(拙著『日本が二度と立ち上がれないようにアメリカが占領期に行ったこと』致知出版社、250-257頁、参照)。
                                                                                                                                                                                                                 

第3回
倉敷市立短大の平山諭教授は、脳科学を活用した発達障害児や「気になる子」を支援する21のスキルを実践化している。
 例えば、ADHDは前頭葉を活性化する神経伝達物質であるドーパミンとノルアドレナリンの不足が原因だと説明されている。ドーパミンは楽しい、夢中になる、運動(作業)をする時に、ノルアドレナリンは緊張感や危機感がある時に、神経の樹状突起で放出され、やる気、元気、集中力、思いやり、ワーキングメモリー(作業記憶)力、忍耐力、社会規範力などが高まる。
 このドーパミンを放出するためのスキルは、「変化、運動、工夫、見通し」スキルで、ノルアドレナリンを放出するためのスキルは、「時間制限」スキル(適度な緊張感)であるという。「変化」とは、子供たちに与える表現のトーンを変化させるスキルのことである。「見通し」とは、数字を使って、この先何が起きるか、どこで作業をすればよいか、などのゴールを示すスキルのことである。
 また、アスペルガーや不安傾向のある子供は、大脳辺縁の扁桃体がうまく働いていないので、もう一つの神経伝達物質であるセロトニンを放出するためのスキルとして、「見つめる、ほほえむ、話しかける、ほめる、触れる」の五つのスキルが脳の改善に有効であるという。
 前頭葉を活性化するためのその他のスキルとして、リズム、テンポ、快感、緊張、希望、刺激などがある。「リズム」とは、大人のさまざまな表現にメリハリをつけることである。「テンポ」とは、話す速さのことで、緊張感のある個所では話す速度を速め、リラックスしたような箇所では速度を遅くし、大切な説明やほめる際には速度を速める必要がある。「快感」とは、子供たちに快感刺激を与えていくことである。楽しい、夢中にさせる環境作りといえる。「緊張」とは、脳に負荷をかけない程度に追い込んでいく技術で、意欲、集中力が高まる。「希望」とは、子供の心を前向きの状態に置くことである。「刺激」とは、説明の際に、不要な言葉を極力使わず、刺激の量を減らずスキルである。(平山諭『発達障害児の授業スキル』『満足脳にしてあげればだれもが育つ!』『こんなとき、どうすればいいの?発達障害への対応』参照)
(全日教連教育新聞 平成26年4月号?6月号に掲載)

プロフィール
高橋 史朗(たかはし しろう)
一九五〇年(昭和二十五年)生まれ。早稲田大学大学院修了。明星大学教育学部教授。日本教育文化研究所教育問題審議委員。専門分野は教育学。一般財団法人親学推進協会理事長。主著に、単著『親学Q&A』登龍館(二〇一〇年)、単著『脳科学から見た日本の伝統的子育て』モラロジー研究所(二〇一〇年)がある。

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