平成17年7月25日
 
「義務教育特別部会審議経過報告」に対する意見
 
 
全日本教職員連盟
 
1 はじめに
 
 現在、中央教育審議会(中教審)義務教育特別部会において、「これからの義務教育の在り方」が集中的に審議されていることは、昨今の児童生徒をめぐる状況から見ても、非常に重要であると考える。日々、児童生徒の教育に直接かかわっている教職員としては、本部会において、国と地方の連携のもと、何よりも児童生徒のことを考えた、義務教育のよりよい方向性が示されることを強く望むものである。
 今後、秋の答申に向けて、以下の意見が反映されることを要望する。
 
 
2 審議経過報告その1について
 
 新しい時代の義務教育の在り方として、@国際的に質の高い教育の実現を目指す、A教師に対する揺るぎない信頼を確立する、B現場の主体性と創意工夫で教育の質を高める、C確固たる教育条件を整備する、という4つの基本的視点が表されているが、これは現在の義務教育に、まさに必要な視点である。今後は、これらが実現するように制度改正を行うとともに、教職員及び関係諸機関が改革に真摯に取り組んでいくことが重要であると考える。
 しかし、急激な制度改革は、学校現場に混乱をもたらし、結局は十分な成果を上げることができない場合もある。今回の経過報告その1に対し、学校現場の実情から以下のことを考慮していただくことを望む。
 
 (1) 教育内容の改善、制度の見直しについて
 
○ 本来であれば家庭において教育されるべきことが、学校に求められている現状がある。しかし、家庭の教育力の低下が懸念されるだけに、それらすべてを学校から家庭に戻すことが、本当に児童生徒のためになるとは言えない。今後は、地方自治体及び教育委員会が、学校と家庭そして地域が十分に連携のとれる条件整備を、積極的に行う必要がある。
 
○ 現行の学習指導要領が施行されて3年が経過した。一部で学力低下が懸念されているが、総合的な学習の時間や習熟度別学習等の取り組みが徐々に成果をあげてきているのも事実である。学校現場は常に、今までの取り組みを振り返り、問題点を捉えそれに対して改善を行っている。そのような中、すぐに求めていたような結果が出ないという理由で、制度そのものを見直すことは拙速であると言える。長期的な展望を持って実践を積み重ねることによって、学習指導要領の目標が達成できると考える。
 
○ 児童生徒の学力の実態を正確に把握し、次の指導に活かすために学習の到達度や理解度を調査することは重要である。しかし、学力テストを全国一斉に行うことで、地域や学校間の成績を競い合うような機運の醸成につながってしまうと、学習指導要領本来のねらいから外れてしまう危険性がある。また、調査の在り方も、結果が日々の教育に活かされるものになるよう、慎重に検討する必要がある。決して、いたずらに児童生徒や教職員の負担だけが多くなるような調査になってはならないと考える。
 
○ 第7次定数改善計画により、少人数指導が広がり、その成果が表れてきている。しかし、個別指導の必要な児童生徒が年々増えている実態を考えると、まだ十分に教職員数が確保されているとは言えない。厳しい財政状況ではあるが、各学校に十分な教職員を配置し、校長のリーダーシップのもと、校内の実態に応じて少人数指導や少人数学級が選択できるような次期定数改善計画の実施が早期に望まれる。
 
○ 現在、LD・ADHD・高機能自閉症等の軽度発達障害のある児童生徒が、各学級6%の割合で在籍していると言われている。これらの児童生徒に対し、必要に応じて個別に関わることができる教職員を確保し、豊かな人間関係の中でその児童生徒に最も適した教育を展開することは、その児童生徒にとっても、また、その児童生徒の在籍する学級にとっても重要なことである。
 
 
 (2) 教員の質の向上について
 
○ 質の高い教員を確保し、指導力不足や不適格な教員を少なくするために、免許更新制の導入を検討することは理解できる。しかし、教員の資質を高めるためには、現行の初任者研修や10年次経験者研修、教員評価制度等をさらに充実させることが先決である。免許更新制を導入するとしても、多忙な教員が教育活動に専念できる時間がこれ以上削られることのないように、実施方法についての十分な検討が必要である。
 
○ 現在の教員養成大学のカリキュラムだけでは、新たに生じてきた今日的な課題に対応するための実践力が十分に身に付けられていないとして、専門職大学院の設置が検討されていると受け止めている。設置の主旨は十分理解できるが、まずは、大学における教員養成のカリキュラムの見直しをすることによって、教師を目指す大学卒業者全員の資質の向上を図ることが先決であると考える。
 
○ 現在の給与体系では、それぞれの教職員の職責や能力に応じたものになっていない。今後は、適正な教員評価の在り方も含めて、教職員が意欲を持って職務に専念できる新たな給与制度の策定が急務である。
 
 
 (3) 学校・教育委員会の改革について
 
○ 児童生徒の実態は、地域や学校においてそれぞれ違いがある。また、同一の学校内においても、全体のバランスを考慮した、教職員の配置が求められる。そこで、教頭や養護教諭の複数配置、少人数指導や少人数学級の選択など、学校内の運営の仕方に関して、今よりも学校長の裁量を拡大することが重要である。
 
○ 現在の教育委員会制度は組織や運営が形骸化し、実質的にその機能を果たしていない場合があると指摘する声がある。また、市や町の規模によっては、適した人材を確保することが難しい現状もある。しかし、教育委員会の持つ、中立性・継続性・安定性を確保することは、公教育を維持向上する上で不可欠である。そのために、教育委員会制度の存続を前提とした上で、必要な改革を行うことが望まれる。
 
 
 
 
3 審議経過報告2について
 
 
 義務教育の費用負担の問題は、様々な観点から議論が交わされているが、未だに国庫負担金として堅持するか、一般財源化するかに意見が分かれていることは、義務教育の理念から考えても非常に残念である。義務教育を通して、児童生徒は確かな学力と豊かな人間性を育成されなければならない。また、児童生徒の現状を見る時、学習意欲の低下や問題行動の複雑化など、早急に対応しなければならない課題が多い。だからこそ、国・地域・教育現場が一体となって、教育の在り方を見直して取り組んでいかなければならないと認識している。
 今後の審議で、「児童生徒にとってよりよい教育制度改革」ということを中心に据えて議論が深まるよう、児童生徒に直接かかわる教職員の立場から以下のことを強く要望する。
 
 (1) 国と地方の連携を第一に考えた義務教育の役割分担
 
 これまでの義務教育の在り方は、文部科学省を中心とした中央集権的な面があり、地方の独自性が発揮できなかったという意見がある。確かに、地域や学校の実態に応じた教育の創意工夫は重要である。しかし、義務教育の目的が、人格形成と国家・社会の形成者の育成であるならば、国として一定の水準を維持向上させるためには 基準が必要となる。それが、教育基本法であり、学習指導要領や標準法であると考える。地方6団体は、国は基準づくりだけを行い、あとはすべて地方に任せるように主張している。しかし、本当に「児童生徒のため」を考えるならば、役割分担を明確化してよしとするのではなく、連携を前提とし、お互いに高め合う関係の構築を第一に考えた議論が進められることを望む。
 
 (2) 国が十分な経費を確保し、地方が独自性を発揮できる制度の確立
 
 教育の質を向上させるためには、優秀な教職員を確保することが不可欠である。そのためには、人材確保法の主旨を視野に入れた人件費の確保が重要な課題である。また、少人数指導や少人数学級など、個に応じたきめ細かな指導の充実を図るためにも、十分な教職員数を確保するための予算が必要である。
 これまでは、義務教育費国庫負担金がこれを保障してきた。しかし、負担金であるために、その使途について国からの制約が強く、地方にとっては使い勝手が悪いという意見もある。
 国の制約が問題であるのであれば、一般財源化するよりも、現在実施されている総額裁量制におけて、地方の自由度を阻害している問題点を今後の審議を通して明らかにし、改善していくことが先決である。確実に教育費を確保するためには、目的意図がはっきりとした国庫負担という形が最善であり、それをよりよい制度に改善していくことが教育の質の向上につながると考える。国が義務教育に責任を持つという大原則からすれば、まずは国が全額をきちんと保障し、そして使い方は地方に全面的に任せるという形が最も望ましい方法であると考える。
 
 
 (3) すべての教職員が安心して職務に専念できる、全国の教育環境の整備
 
 教職員は、児童生徒の抱える問題を解決し、一人一人に応じた教育を提供することによって、将来の日本を担う国民を育成しようと日々努力している。このような教職員が、安心して職務に専念できるためには、全国どの都道府県においても教職員の給与水準が安定している必要がある。
 義務教育は日本の国民を育てるのであり、国が責任をもって、都道府県間の格差を生じさせないように制度設計することが望まれる。
 審議の中で、「税源移譲し、地方の税として学校を運営することによって、教職員の自覚が高まる」という意見があるが、教職員は、どこが財源負担するかということによって、教育に対する意欲が変わることはない。あくまでも、児童生徒のために教育活動に専念しているのである。大切なのは、きちんと給与が保障されることである。
 また、これまでの一般財源化の議論の中で、学校事務職員や学校栄養職員が補助金から外されることが挙げられたり、今回は、中学校教職員分だけが対象になったりしている。教育現場では、すべての教職員がそれぞれの役割を果たしながら協力して、児童生徒の教育に全力を傾けることが、学校運営上、必要不可欠である。今後とも、一部だけを国庫負担の対象外とすることないことを強く望む。
 
 
4 最後に
 
 今後の審議が以上のような点を踏まえて行われ、今後10年・20年先を見据えた義務教育の改革が行われることを強く望む。