平成17年10月27日
「新しい時代の義務教育を創造する(答申)」に対する意見
全日本教職員連盟
1 はじめに
中央教育審議会(中教審)義務教育特別部会において、41回のべ100時間以上にもおよぶ審議の末まとめられた答申「新しい時代の義務教育を創造する」は、教育現場の現状を踏まえた上で、未来を担う子供たちに「生きる力」を養うための、これからの義務教育の進むべき方向性が具体的に示されている。この答申は、我が国の教育全体を論じたものであり、子供たちの教育に直接かかわる、私たち教職員にとっても、たいへん意義深いものである。
全日教連としては、この答申の主旨が尊重され、これを契機にして、真に子供たちのためになる義務教育の改革が確実に進むことを強く望むものである。以下、答申案の内容と今後の取り扱いの2つについて意見を述べる。
2 答申の内容について
(1) 総論について
総論において義務教育の目的・理念及び目指すべき姿、それを実現するための改革の全体像が示されたことは評価できる。
特に、義務教育は「学校」が中心であり、国・都道府県・市区町村が学校を支えるという視点から、果たすべき役割が明記されている。義務教育特別部会の議論の中では、地方分権の名の下、すべてを地方に移すことが教育の質を高めることに繋がるといった意見も出された。しかし、国も含め、子供たちの周りのすべての大人が、その役割を果たすことが、全国の子供たち一人一人の能力を最大限に伸ばすことに直接影響を与えると考える。
学校の教育効果を高めるためには、資質能力を備えた教職員を安定的に確保し、さらに教職員が安心して職務に専念できる環境を整備する必要があることは、答申に述べられているとおりである。これを実現するためには、安定した財源の確保が、全国どの地域にも確約される必要がある。地方6団体側は、都道府県間において教育費の水準に著しい格差が生じることのないような法令の制定も提案しているが、これまでの歴史的経緯を鑑みても、義務教育費国庫負担法こそがその法律であり、国庫負担制度を今後一層充実させることが重要であると考える。
今回、地方が求める義務教育費国庫負担金の一般財源化のねらいは、地方の権限や自由度を高めることであると考える。しかし、地方のこのねらいは国庫負担金の廃止によっては実現することがないことは、中教審の議論を通して明らかにされた。今後は、財源保障した上で、地方が様々な創意工夫を発揮することができるよう、総額裁量制を含めた制度改正を行うべきである。
この総論の内容は、我々教職員にとっても、また保護者や子供たちの教育に関わる地域住民等にとっても、よりよい義務教育を確立するために、改めて心に刻むべき内容である。今後は、この内容を国民全体に広げ、この理念の下、新しい義務教育が創造されることを強く望むものである。また、我々教職員は、この理念の実現に向けて、教育活動に全力を尽くすことを約束するものである。
(2) 各論について
各論の中では、具体的な改革案についての基本的な方向性が示されているが、今後さらに検討を進めるべき内容についても述べられている。その中で、特に配慮を求めるものについて以下に述べる。
○ 児童生徒の学力の実態を正確に把握し、次の指導に活かすために学習の到達度や理解度を調査することは重要である。しかし、学力調査を全国一斉に行うことによって、地域や学校間の成績を点数のみで競い合うような機運が高まってしまうと、学習指導要領本来のねらいから外れてしまう危険性がある。学力調査の結果が日々の教育に活かされるものになるよう、調査内容や方法について慎重に検討する必要がある。
○ 教員の指導力の水準を保障するために、免許更新制の導入を検討することは理解できる。しかし、多忙な教員の教育活動に専念できる時間がこれ以上削られることのないように、実施方法については十分に検討する必要がある。また、教員養成部会からも提案されているように、養成・採用・研修・評価等の在り方を総合的にとらえ、制度化することを望む。併せて、現行の初任者研修や10年経験者研修、教員評価制度等の充実についても、現場の実情を踏まえて適宜改良を加えていくことが必要であると考える。
○ 現在の教員養成大学のカリキュラムだけでは、新たに生じてきた今日的な課題に対応するための実践力が十分に身に付けられていないとして、専門職大学院の設置が検討されている。同大学院の設置の主旨は十分理解できるが、まずは、現在の大学における教員養成のカリキュラムの見直しを行うことによって、教師を目指す大学卒業者全員の資質の向上を図ることが先決であると考える。
○ 現在の教育委員会制度は組織や運営が形骸化し、実質的にその機能を果たしていない場合があると指摘する声がある。また、市や町の規模によっては、適した人材を確保することが難しい現状もある。しかし、教育委員会の持つ、中立性・継続性・安定性を確保することは、公教育を維持向上させる上で不可欠である。そのために、教育委員会制度の存続を前提とした上で、教育委員会の規模や役割等、必要な改革を行うことが望まれる。
3 今後の取り扱いについて
義務教育特別部会の審議経過報告ならびにのべ41回の議事録から、今回の議論は、これまでの義務教育の持つ課題を正面から捉え、50年、100年先の未来に向かって、どのように改革することが一番望ましいかが、真摯に、そして論理的に議論されていると感じた。ほとんどの委員に共通していることは、「子供たちのためになる」改革を成し遂げようとする意欲であった。義務教育費国庫負担制度の存廃に関しては、最後まで意見が二分したが、これは、それぞれの立場で義務教育のあるべき姿、それを実現するための自分たちの役割を真剣に考えた結果であると考える。
本当に「子供たちのためになる」教育改革を考えるのであれば、今後は、この答申を導くために議論した内容を活かし、国と地方、そして直接子供たちの教育に関わる教育現場が一体となって、答申の内容を実現していくことが重要であると考える。そのために、教職員の立場から以下のことを強く要望する。
(1) 中教審の結果を尊重した政府の決断
今回の中教審は、昨年11月に示された政府・与党合意の中の、「義務教育制度については、その根幹を維持し、国の責任を引き続き堅持する。その方針の下、費用負担についての地方案を生かす方策を検討し、また教育の維持向上を含む義務教育の在り方について幅広く検討する」ということに基づいて行われた。中教審は、この依頼に応え義務教育特別部会を設置し、一つ一つの問題を十分に時間をかけて検討し、さまざな立場の意見を反映して、結論を導き出している。地方が求める教育に関する自由度の拡大も、学級編制や人事権等を改善することによって達成できることが示されている。
我が国のこれからの義務教育の在り方を、これまでの反省を活かし、新しい観点から多方面において提言したこの中教審の内容は十分に尊重されることを要望する。
(2) 国民の教育に対する願いの実現
これからの義務教育の在り方をテーマにした今回の中教審の議論は、広く国民が注目する内容であった。中教審が開催した一日中教審や、インターネットによる意見募集においても、そのほとんどが、国が教育に対して責任を持ち、都道府県間で教育水準の格差を出さないためにも、義務教育費国庫負担制度は継続する必要があることを訴えていた。また、全国の市区町村の半数以上が、国庫負担制度堅持の意見書を提出している。
各都道府県や市区町村が独自性を発揮し、教育水準を向上させることは歓迎すべきことであるが、それは、国によるしっかりとした財源保障ができた上で実現するものであると考える。すべての教職員、保護者、そして地域住民が、このことを望んでいることを理解した上で、同制度の堅持とさらなる充実を要望する。
4 最後に
恒久的な措置として、国が教育に対して責任を持ち、教職員が安心して教育に専念できる制度を確立することを強く望む。