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渡部 匡隆

気になる行動についてwatabe.JPG

横浜国立大学
教育人間科学部学校教育課程特別支援教育講座
教授 渡部 匡隆

第1回
まずは、気づきの支援から
 新学期に臨んで、特別支援教育の立場から3つのことをお願いしたい。
第1に、観察する行動をはっきりさせることである。「学級開き」が行われ、少しずつ学級づくりが進んでいく中で、気になる子どもの存在がみえてくる。そのときに、「気になる子ども」ではなく、子どもの「気になる行動」を捉えるようにして欲しい。
例えば、子どもの落ち着きのなさが気になったとする。ところが、落ち着きがないといっても、授業開始時間になっても着席しない、出し抜けに発言する、許可なくすぐに離席する、授業中に級友に話しかけるなどさまざまである。そこで、気になることを具体化して、すなわち、子どもの気になることをそのままことばにして、観察する行動をはっきりさせる。単純なことかもしれないが、この作業が問題解決の大きな鍵となる。
気になる行動がいくつか挙げられるかもしれない。そのときは、代表的なものを1つ取り上げる。大切なことは、子どもの行動を捉える視点が明確になっていることである。そのことで、子どもの全体像をより理解しやすくなり、他の先生や保護者と問題解決に向けた有意義な情報交換が可能となる。
第2に、気になる行動の増減の傾向をつかむことである。気になる行動が、以前と比べて減っているのか、変わらないのか、それとも増えているのかを把握する。もし、許可なく離席する行動が新学期の開始から徐々に減少しているのであれば、いまの対応が成功しているためであり、そのまま経過を見守っていくのがよいと判断できる。しかし、以前と変化しない、あるいは以前よりも増加していることになれば、現在の対応を改善する必要があると判断できる。離席回数や着席時間などの客観的な記録をもとに行動の増減傾向を明らかにすることが、迅速で的確な判断を促し早期の発見や支援につなげられる。
第3に、ホウレンソウである。特別支援教育に限らず報告、連絡、相談は重要であるが、特別な支援を必要とする子どもへの対応でいつも反省になることは、もう少し早く報告があれば、相談があればということである。しかし、ホウレンソウの遅れには原因がある。教師の多忙さに加え、一人の気づきをみんなの気づきにしていく環境の弱さである。相談して良かった、話ができてホッとした、安心したと相談者が思えるだけで、子どもたちのかなりの問題は改善される。気になる行動に気づいたら思い切って相談する、相談された場合、解決方法や良い助言をとあせるのではなく、じっくりと話を聞くようにして欲しい。
特別な支援を必要とする子どもへの支援の成功の鍵は、まずは気づきの支援にあると言っても過言ではない。

第2回
気になる行動を理解する
 4月号では、気になる行動を具体的に定義する、気になる行動の増減傾向をつかむ、気になる行動のホウレンソウを指摘した。5月号では、気になる行動を2つの側面から理解することを提案したい。
 まず、行動を捉える便利な枠組みがある。ABC分析と呼んでいる行動を捉える枠組みは、気になる行動を理解するためにも、適切な手立てを講じるためにもとても使い勝手がよい。ABC分析は、子供の行動の理解だけでなく授業づくりにも重宝するため、すべての教師にその捉え方を身につけて欲しいと考えている。
 ABC分析とは、子供の行動(B)を直前の状況(A)と直後の状況(C)の3つの要素を合わせて捉える方法である。気になる行動であろうと望ましい行動であろうと、子供の行動はちょっとした環境からのはたらきかけで増加したり減少したりする。授業に関連する発言に対して、即座に「いいね」などとフィードバックすると、ますます発言が増えるだけでなく、学習の意欲や態度も向上する。また、発問とあわせて板書したり、ヒントを出したりすると子供の発言のきっかけづくりになったり、授業への興味も喚起される。基本的なことであるが、子供の行動も授業も、教師をはじめとした環境との相互作用の中で営まれる。子供と環境との相互作用の捉える枠組みがABC分析なのである。
 ABC分析の枠組みをとおして、理解して欲しい1つの側面が気になる行動の前後の状況の丁寧な観察である。理科の時間に離席を繰り返す児童がいた。離席をするタイミングをよく観察すると、実験をしているときではなく教師によって実験の説明やまとめの話しをしているときに起こりやすかった。一方、離席をして何をしているかと言えば、他の子供に話しかけたり、机の上の実験器具を触ったりしていた。つまり、実験の説明やまとめのお話しが離席行動の直前の状況であり、子供に話しかけたり実験器具を触ったりすることが直後の状況となる。それらの行動の前後の状況が、気になる行動のきっかけとなったり、気になる行動が続く要因になったりすることが多い。また、気になる行動の変容のためには、起こりやすい前後の状況に対して必要な手立てを講じることが最も効果的で効率的なはたらきかけとなる。そのため、気になる行動の実態を正確に把握することとあわせて、気になる行動の前後の状況を捉えることが大切になる。
 もう1つの側面が、なぜ気になる行動が続いているのか、気になる行動に秘められた行動のもつ機能(はたらき)に迫ることである。周囲が気になる行動でも、子供の行動には必ず理由がある。その理由は、子供と環境との相互作用の中に潜んでいる。実験の説明が分からなければ、その状況は子供にとっては嫌悪的となる。嫌悪的な状況になると、その場からの逸脱行動がどうしても起こりやすくなる。あるいは、その場で何もすることがなく、実験器具を触るという具体的な結果が得られると本人なりの手応えがある。行動することで物や活動を得る、周囲の関心や注目を得るといったはたらきも行動の起こりやすさをもたらす。
 ABC分析の枠組みを通して、気になる行動が起こりやすい、あるいは起こりにくい前後の状況を把握したり、気になる行動のもつ機能を発見したりすることが、子供に寄り添った指導となり、問題解決のための具体的な手立てにつながる。


第3回
手立てにつながる行動観察の視点
 5月号では、気になる行動(B)を行動の直前の状況(A)と、行動の直後の状況(C)と組にして捉えるABC分析という枠組みを提案した。ABC分析の利点は、ABC分析をすることが直ちに個に必要な手立てを明らかにできること、特別な支援を必要とする子供の理解を促進することにある。それらを可能にするためには、手立てにつながる行動観察の視点を加えることが大切になると考えている。本稿では、ちょっとしたコツではあるが、「逆転の発想」とも言われるそれらの視点について紹介したい。
 5月号で、理科の時間に離席を繰り返す小学4年生の児童について述べた。ABC分析では、気になる行動、その児童では離席行動に焦点をあて、離席行動の直前と直後の状況を観察すること、何のために離席行動が生じているか、離席行動がもつ機能(はたらき)を把握していくとした。その上で、手立てにつながる行動観察の視点では、気になる行動が起こりにくい場面に着目する。そして、気になる行動が起こりにくい、すなわち、子供の適切な行動に焦点を当てて、ABC分析のステップで適切な行動の直前と直後の状況について観察していくのである。
 ポイントは、気になる行動についてのABC分析の結果と、適切な行動についてのABC分析の結果を、直前の状況、直後の状況毎に比較することにある。児童を例にすると、指示が長く曖昧なときは離席行動が生じやすく、簡潔に順序よく指示しているときは指示を聞いて行動することが起こりやすかった。また、行動の直後にフィードバックがあったり、物を操作して具体的な結果が伴ったりしたときは適切な行動が起こりやすく、ただ聞くだけのときは離席行動が生じやすかった。
 それらの情報は、児童理解と必要な手立てに関する直接的なヒントとなる。その児童は、長くて曖昧な指示を理解することは弱く、簡潔で順序立てた指示を理解することは強いと捉えられる。また、行動の直後に何らかのフィードバックや具体的な結果が伴うと取り組めるが、行動しても何の結果も生じないと取り組みにくいと捉えられる。そして、気になる行動が生じやすい状況に、適切に行動できているときの状況を組み込むことで問題解決が促進されると予測される。つまり、簡潔に順序よく指示する、あるいは何らかの具体的なフィードバックを行うといった工夫を試みてみるのである。
 特別な支援が必要な子供への指導で担任が苦慮することの1つは、子供に必要な手立てや配慮が分かりにくいことにある。しかし、これまでの実践から、必要な手立てを経験していることが多い。問題は、それらの経験が、新たに担当した子供に応用されにくいことである。その理由は、子供と手立てと結びつける手法の弱さにある。ABC分析を活用した手立てにつながる行動観察の視点は、それらを結びつける有効な手法となる。
 気になる行動がみられると、どうしても気になる行動への注目が増えてしまう。そのことは、結果的に気になる行動を強めてしまう悪循環に陥りやすい。子供を総合的に理解していくためにも、手立てにつながる行動観察の視点が大切になると考えている。
(全日教連教育新聞 平成25年4月号?6月号に掲載)

プロフィール
渡部 匡隆(わたなべ まさたか)
筑波大学大学院で自閉症、発達障害のある幼児・児童への指導を経験。その後、愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所で成人期の発達障害のある人への支援を経験。現在、横浜国立大学教育人間科学部特別支援教育講座で、幼児期から成人期までの主に知的障害を伴わない自閉症スペクトラムのある人への指導・支援に臨床活動を通して取り組んでいる。
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株式会社イエローハット
相談役 鍵山 秀三郎

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