全日本教職員連盟

新しい教育の在り方についての調査(12) <発展的な学習の実施>

1 はじめに

 全日教連では今年度、モニター調査において「基礎・基本の定着」や「総合的な学習の時間」といった学力に関するテーマについて一貫して調査を続けています。今回は「発展的な学習の実施」についての調査を行います。

 「発展的な学習」は、平成10年の教育課程審議会答申で提言された「個に応じた指導」を踏まえて、学習指導要領の中で中学校の選択教科について、生徒の能力・適性、興味・関心等に応 じて一層多様な学習活動ができるように「補充的な学習」とともに例示されたものです。
 同答申では、児童生徒の発達段階等を考慮し、学習内容の理解や習熟の程度に応じて、弾力的に学習集団を編成する等の「個に応じた指導」を一層進める必要がある、と提言しています。
 これを受けた学習指導要領では、「個に応じた指導」の方法等として、小学校については、個別指導やグループ別指導、繰り返し指導が例示されています。また、中学校については、個別指導やグループ別指導に加えて「学習内容の習熟の程度に応じた指導」が例示されています。
 「発展的な学習」はこうした文脈の中で、中学校における選択教科の学習活動の例として示されてきました。従って、この時点では、「発展的な学習」は「補充的な学習」とともに、小学校及び中学校の必修教科では例示されていませんでした。

 しかし、教育課程編成・実施状況調査によると、平成15年度の計画においては、小・中学校とも約7割の学校が必修教科で「学習内容の習熟の程度に応じた指導」を実施しており、その中で小・中学校とも約5割が「発展的な学習」に取り組んでいます。また、「補充的な学習」にも約7割が取り組んでいます。さらに、小学校で約4割、中学校で約3割が必修教科で「課題別、興味・関心別の指導」を実施しています。
 「学力向上フロンティアスクール」等、このような「学習内容の習熟の程度に応じた指導」、「発展的な学習」や「補充的な学習」、「課題別、興味・関心別の指導」等の「個に応じた指導」を積極的に取り入れている学校では、児童生徒の学力の伸長をはじめ様々な面で効果を上げており、保護者からの肯定的な意見も寄せられています。
 一方で、学校によっては、「学習内容の習熟の程度に応じた指導」が小学校学習指導要領の「個に応じた指導」に例示されていなかったことや、「補充的な学習」、「発展的な学習」が小中学校学習指導要領の必修教科では例示されていなかったことを理由に、これらについて限定的に実施していたという実態もありました。

 平成15年10月の中教審答申「初等中等教育における当面の教育課程及び指導の充実・改善方策について」を踏まえて、「確かな学力」を育成し、「生きる力」をはぐくむという学習指導要領の更なる定着を進め、そのねらいの一層の実現を図るために、同年12月に学習指導要領の一部が改正されました。この中で、学習指導要領に示しているすべての児童生徒に指導する内容等を確実に指導した上で、児童生徒の実態を踏まえ、学習指導要領に示していない内容を加えて指導することができることを明確にしました。
 また、個に応じた指導の充実のための指導方法等の例示として、小学校については、「学習内容の習熟の程度に応じた指導」、「補充的な学習」や「発展的な学習」等の学習活動を取り入れ た指導等を、中学校については、「補充的な学習」や「発展的な学習」等の学習活動を取り入れた指導等を加えました。

 以上のような経緯を踏まえて、今後さらに、確かな学力を育成し、指導要領のねらいを実現するために、各学校において児童生徒一人一人の良さや可能性を伸ばし、個性を生かす教育の一層の充実を図ることが期待されています。

 そこで今回は、「発展的な学習の実施」についての全日教連会員の意識を探り、その調査結果を踏まえて、全日教連の今後の要望活動に生かしていきたいと考えます。

2 調査のねらい

 新しい教育の在り方として「発展的な学習の実施」に焦点を当て、学校現場の実態や教職員の意識を調査し、より良い教育改革を推進するための提言の参考資料としていく。

3 調査の方法と期間

 平成18年1月16日から1月30日までの間、全国33単位団体から推薦された全日教連モニター500名を対象に設問用紙を郵送し、同封の葉書で回答を得た。
 回答数 368  回収率 73.6%

・ 回答者年齢構成
hattengakusyu_fig1.gif
20代 1.8%
30代 19.4%
40代 48.6%
50代 29.3%
60代 0.9%

・ 回答者校種構成
hattengakusyu_fig2.gif
小学校 59.4%中学校 32.7%高等学校 6.0%その他  1.8%

4 設問及び結果

<設問1>  「発展的な学習」の取り組みの現状についてお答え下さい。

ア 取り組んでいる

イ 取り組んでいない

hattengakusyu_fig3.gif 傾向
・ 全体としては、7割近い学校で「発展的な学習」が取り組まれている。
・ 小学校は69.5%、中学校は70.4%の学校で取り組まれており、ほとんど同じであった。

<設問2>  <設問1>でア「取り組んでいる」を選択した方にお聞きします。
どのような形態で取り組んでいますか。

ア 学校全体で取り組んでいる

イ 学年単位で取り組んでいる

ウ 学級単位で取り組んでいる

hattengakusyu_fig4.gif 傾向
・ 全体としては、「学年単位で取り組んでいる」が4割を超えて最も多く、「学校   全体で取り組んでいる」も4割に近い。
・ 小学校では「学校全体29.2%」「学年単位40.4%」「学級単位29.2%」で、学年   単位での取組が多い。
・ 中学校では「学校全体52.0%」「学年単位40.0%」「学級単位8.0%」で、学校全   体での取組が多い。

<設問3>  <設問1>でア「取り組んでいる」を選択した方にお聞きします。
どの教科で取り組んでいますか。(複数選択)

ア 国語
イ 英語
ウ 社会
エ 算数・数学
オ 理科
カ その他(           )

hattengakusyu_fig5.gif 傾向
・ 「算数・数学」が約9割と最も多く取り組まれている。次いで「国語」の約4割である。
・ 「英語」「社会」「理科」は同じ程度に取り組まれている。

<設問4>  <設問1>でア「取り組んでいる」を選択した方にお聞きします。
どのような方法で取り組んでいますか。(複数選択)

ア 一斉指導で行っている
イ グループ指導で行っている
ウ プリントを用意して、個別に指導している
エ TTで行っている
オ 習熟度別学習において行っている
カ 長期休業中の課題として取り組んでいる
キ 選択教科の中で資格取得(英語検定・漢字検定・歴史検定・数学検定等)のための学習を行っている。
ク その他(                  )

hattengakusyu_fig6.gif 傾向
・ 取り組んでいる学校の約半数は「習熟度別学習」で行っている。
・ 次いで「TT」「プリントによる個別指導」「一斉指導」の順で取り組まれている。

<設問5>  <設問1>でイ「取り組んでいない」を選択した方にお聞きします。
今後取り組む場合、どの教科なら可能だと思いますか。(複数選択)

ア 国語
イ 英語
ウ 社会
エ 算数・数学
オ 理科
カ その他(           )

hattengakusyu_fig7.gif 傾向
・ 現在取り組んでいる場合の教科と同様に、「算数・数学」が最も多い。
・ 次いで「理科」が多く、「英語」「国語」「社会」は同じ程度である。

5 考察

 <設問1>から、全体的に7割近い学校で「発展的な学習」が取り組まれている現状が分かった。これは、平成15年12月の学習指導要領の一部改正によって、「学習指導要領に示している、すべての児童生徒に指導する内容等を確実に指導した上で、児童生徒の実態を踏まえ、学習指導要領に示していない内容を加えて指導することができること」が明確になったことで、「発展的な学習」に対する学校現場の意識が高まってきたことが背景にあると考えられる。
 また、回答者の92%が小中学校の教職員であり、小中学校別で見ると、ともに約7割の学校で取り組まれており、小中学校での大きな差は見られなかった。
 取組の形態を問うた<設問2>からは、「学校全体」や「学年単位」での取組が多いことが分かった。「学級単位」での取組について小中学校で差が見られるのは、中学校では教科担任制をとっているため、「学級単位」のみでの実施が困難であり、どうしても学校あるいは学年での取組となることによるものと思われる。また、小学校において「学校全体」や「学年単位」での取組が多いということからも、「発展的な学習」への意識は以前よりも高くなってきていると考えられる。このように、学習指導要領の一部改正による教育方法の変更は、学校あるいは学年での取組として顕著に現れている。

 取り組んでいる教科では「算数・数学」が全体の9割近くと圧倒的に多いことが<設問3>から分かった。「算数・数学」は児童生徒にとって定着の度合いの差が現れやすい。単元ごとに基礎・基本の内容が定着した児童生徒には、発展的な学習内容を提示して、より高い学力をつけていくことが個に応じた指導の充実になると捉えられていることが理由として考えられる。
 また、「算数・数学」に次いで「国語」も多く取り組まれている。「英語」「社会」「理科」等、他の教科においても取り組まれており、さらにその他の教科等として、中学校では音楽、美術、技術家庭、保健体育、高等学校では工業関係等におけるそれぞれの専門教科、資格取得のための学習、インターンシップ等の実習における学習、というように様々な回答があった。このように学校現場では、幅広い教科等において個に応じた「発展的な学習」に取り組んでいる様子が分かる。
 現在は「発展的な学習」に取り組んでいないが、今後取り組む場合に可能な教科を問うた<設問5>においても、「算数・数学」が全体の7割を越えて最も多かった。やはり「算数・数学」において特に実施の必要性を感じていることが分かる。以下、理科、英語、国語、社会と続くが、「技能教科も含めて、全ての教科で可能である」という回答もあった。
 <設問3>や<設問5>の結果からも、児童生徒個々の能力に応じた「発展的な学習」を行う必要性を教職員は以前よりも認識していることが考えられる。

 取組の方法を問うた<設問4>からは、「発展的な学習」を習熟度別で行っている学校が約半数あり最も多いことが分かった。これは、より高い学力をつけるために発展的な内容を扱うに際しては、習熟度別の編成による学習が児童生徒の学習意欲を高めるために最も効果的であると考えられていることの表れであろう。
 「習熟度別学習」に次いで、「TT」「プリントによる個別指導」の順に多く取り組まれている。いずれも児童生徒の実態を踏まえ、児童生徒の個に応じた指導が複合的に行われている様子が分かる。中学校では「英語、数学の選択教科を習熟度別学習で行っている」という回答もあった。

 以上のように、「発展的な学習」の積極的な取組がある一方で、「発展的な学習」を実施するとともに、基礎・基本の内容が定着していない児童生徒に対しては、定着を図るための学習を行うことも同時に学校現場には求められている。「発展的な学習」以前に基礎・基本の定着が大切であることは言うまでもない。こうした現状の中で苦労している教職員の実態もある。「特別に支援が必要な児童に対して個別指導や補習が必要な現状では、発展的な学習を指導する時間も、そのための準備を行う時間も十分に取れない」という意見があったことからもこのことは伺われる。

 全日教連としては、「発展的な学習」は児童生徒の学習意欲を高め、より高い学力の定着を図るために必要であると捉える。ただし、基礎・基本の定着とともに「発展的な学習」の充実を期すためには、やはり充実した少人数指導が実施できる学習環境が整備されることを切望するものである。学校現場が最も望んでいることは「教職員の増員」である。現在、行政改革の流れの中で総人件費削減、公務員数削減が検討されている。教職員も例外ではなく、児童生徒の減少に伴う自然減を上回る数の削減が検討されているが、これは現場の実態からは大きく逆行するものである。また、平成18年度において第8次公立義務教育諸学校教職員定数改善計画の策定は行われないことになったが、同計画の策定はあくまでも必要であると考える。
 全日教連は、こうした教育改革の流れに対して、児童生徒の学力を保障するという側面からも、今回のモニター調査の結果等も踏まえながら現場の実態を関係各機関に伝え、より良い制度改革がなされるよう提言を行っていく。


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株式会社イエローハット
相談役 鍵山 秀三郎

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